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2013年6月10日月曜日

【今日の雑学】どくだみ 蕺



今年もどくだみの花が咲きだしました。白い4枚花弁で十字形の可憐な花、美しい!実を言うとこれは花ではなく萼(がく)だそうでですが、紫陽花、半夏生も、その他いろいろな植物、萼を花と見立て観賞していますから、ま、ここ花ということで押し通しましょう。

それにしても、どうしてこんな可憐で美しく、たんまりと花咲く植物に、どういう訳があって「どくだみ」なんて忌み嫌われたような名前が付いたのでしょうかね。

「どくだみ」は古い時代には之布岐(シブキ)と呼ばれていたらしいのです。「どくだみ」より断然言葉の響きがいいですね。水しぶきを想像させて、爽やかでピッタリだ。それが江戸時代あたりから「どくだみ」と呼ばれだしたらしい。これは『広辞苑』(第6版)の「どくだみ」項目にちょこっと書かれています。

ぼくの考えでは、これはこの植物の持つ臭いせいではないかと思うのです。たしかに梅雨のじっとりとした空気に乗ってくるどくだみ臭いは、好きになれる人はあまりいないでしょうね。ま、花の印象のような爽やかさはない。美女の体臭?

そこで、この「どくだみ」と呼ばれる由来をちょっと調べました。毒矯める(ためる=抑える)から「毒矯み」という名が発しているという説明されていることが多いのですが、どうもしっくり来ない。白川静先生の『字通』をはじめ漢和辞典はほとんどが、「矯める」という漢字の字義は、「曲がった(矢・根性)だどを真っ直ぐ正すこと」であるしか書かれていないんですね。「抑える」という字義は登場しない。

では他にどんな説明があるか。
例えば、これは『日本国語大辞典』の記事です。
1 ドクヲタム(毒溜)
2 ドクイタミ(毒痛)
3 ドククダシノミ(毒下飲)
4 テクサミ(手臭)

4なんかはまさに臭いからこのような名がついたという説ですね。これを見ていると、どうやら定説はなさそうだ。

方言もいろいろあるようです。ドグダビ(秋田 岩手)ドクダニ(埼玉)ドクダメ(越後 埼玉 岐阜 鳥取 島根)ニュウドウグサ(中国西部 北九州) ジゴクソバ(福島 青森)などなど。「ジゴクソバ」なんてのはちょっと怖いなぁ。

だけど、いずれにせよ「矯める」説はどうも違う気がする。ちょっと遠い感じ。ある薬膳料理屋さんのサイトで「毒痛み」説をとっていました。さてあなたはどう思いますか?

薬膳で思い出したけれど、この「どくだみ」を「じゅうやく」と呼ぶこともあります。ぼくも聞いたことがあるし、「じゅうやく」という名の「どくだみ茶」も飲んだことがある。美味いとはとても思えなかったけれど。

「じゅうやく」という呼称は、どくだみを干して煎じて飲むとさまざまな薬効があることに由来するらしいですが。どくだみを干したものだけを「じゅうやく」呼ぶのか、どくだみという植物そのものを別名としてそういう言い方をするのか、そこのところはまだよく分からない。

どくだみのことを「じゅうやく」というのは、かの『養生訓』で有名な貝原益軒が、十以上の薬効があるので「じゅうやく」(=十薬)というと言ったそうだが、これは間違い。これはもともとどくだみの漢字「蕺」の音「ジュウ」から来ていて「蕺薬=ジュウヤク」というのが正しいらしい。(杉本つとむ 『語源海』 東京書籍によります。)

でも益軒先生の間違いかな?まあ何もそんなに頭ごなしに「間違い」だと言わなくても。庶民に解かりやすく説明するのに、先生が使った方便の可能性だってある。ま、何ごとも穏便に。

それでも、やっぱり「しぶき」と呼ぶのがいいですね。